1. はじめに

1-1. 理想の小顔にするには

小顔というのはあいまいな表現で、お顔全体の問題なのか、主に下顔面の問題なのか人によって様々です。理想のお写真を見せていただいて、何をしたら近づけるかを相談されるのがいいでしょう。顔の大きさは、骨、筋肉、脂肪、皮膚などの複合的な要素で成り立っているので、骨切りがいいのか、脂肪吸引やバッカルファット除去なのか、ボトックスなのか、またはプロテーゼやヒアルロン酸を足した方がいいのか色々な治療の可能性が考えられます。

2. 顔の脂肪吸引の基礎知識

2-1. 顔の脂肪はどこに溜まりやすい?

顔の脂肪吸引は何cc取れる?理想の小顔になるためのガイド

顔の脂肪は図(引用:グラフィックス臨床解剖図譜フェイス)のように浅層・深層で様々な区画に分かれますが、一概にどこが溜まりやすいという事は言えません。体でもお腹に付きやすい人、下半身に付きやすい人がいるように、個人差があります。ただし、相対的に脂肪の多い部分は体重の増減でより影響を受けやすいと言えると思います。例えば頬の側面より正面の脂肪が多い人は、体重が増えた時には、側面より正面がさらにボリュームアップします。脂肪細胞の数が多いところの方が体重増加の影響を受けやすいと言えるかもしれません。お胸の脂肪注入後はお胸の脂肪細胞が増えているので、体重が増えると手術前よりもお胸から大きくなったと実感される方が多いのと同じです。

2-2. 脂肪吸引の対象となる部位

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赤く囲った部分がお顔の脂肪吸引で対象となる部位です。頬の側面、口横(ジョウルファット)、頬の正面(ナゾラビアル・メーラーファット)、顎下です。人によってどこが適応になるかは様々ですが、安易に減らすと将来的に老け顔になりやすかったり逆に状態が悪くなる事もあるので、脂肪量はもちろん、年齢や骨格、皮膚の質感など総合的に判断する必要があります。

2-3. 顔の脂肪吸引の施術方法

お顔の具体的な脂肪吸引の方法は基本的には体と同じです。tumescent(薄めた局所麻酔)を浸潤させてから脂肪吸引を行います。当院ではtumescentに腫れ予防のお薬を加えたり、脂肪吸引の前にベイザーをかけて吸引しやすくしたり、皮膚ができるだけ引き締まるようなひと手間を加えています。顔については狭い範囲で吸引量を微調整する必要があるため、PALやアキーセルといった電動式の物は使わずマニュアルで手動です。使用するカニューレ(吸引管)もジョウルファット、メーラーファット、ナゾラビアルファット、頬側面、顎下を吸引するものそれぞれに合ったものをオーダーメイドで制作してもらって使い分けています。これらの工夫で10代から60代の方でも適切に手術が可能となっています。

2-4. 脂肪吸引 vs 脂肪吸引注射

近年、脂肪吸引注射と呼ばれる細いカニューレで手術を行うクリニックがあります。注射というのネーミングで、一見気軽に感じますが、注射ではなく脂肪吸引です。傷が小さいメリットがありますが、そもそも従来の脂肪吸引の傷も小さく綺麗に治るので特に差はありません。脂肪吸引注射を行っているクリニックは脂肪吸引を許可されていない経験の浅いドクターの施術として行われているようです。細いカニューレはあまり量が吸えないので、吸いすぎたり凸凹になりにくいというリスク回避になるのかもしれません。ただし、しっかり結果を出そうとした場合にはそれ相応の吸引量が必要になります。50ccの脂肪を吸引する場合、細いカニューレの方が手術の時にストローク(カニューレを動かす回数)は多くなります。ストロークが多くなればそれだけ血管損傷などのリスクも高くなると言えますので、施術するのが経験の浅いドクターというのも相まってむしろリスクは高くなると言えます。また、脂肪吸引注射だからダウンタイムが軽いわけではありません。同じ吸引量であればダウンタイムは変わりませんし、ベイザーを使用した方が出血も抑えられダウンタイムは短いと考えられます。

3. 顔の脂肪吸引で実際に除去可能な量は何cc?

3-1. 一般的な吸引量の目安

脂肪吸引量は人によってバラバラですが、標準的な体形の方で、ジョウル(口横)まで含んだ頬側面の場合、片側5cc(両側10cc)前後で微調整、片側10cc(両側20cc)前後だとしっかり変化といった感覚です。顎下まで含めると合計40cc以上でしっかり目の変化、60cc以上だと激変レベルといった感じです。

3-2. 吸引量と仕上がりの関係

吸引量が多ければそれだけビフォーアフターの変化も大きくなります。

ただし、吸引量をネットで見たり聞いたりして自分に当てはめて多い少ないを考えても意味がありません。骨格や脂肪量は人によっても違いますし、たくさん取れるけど取れるだけ取るとお顔全体のバランスがおかしくなるという人も多いからです。全体のバランスを考えたデザイン、将来に渡って長期的に問題のない脂肪吸引が理想です。特に中年以降は皮膚の薄さや張りなどもしっかり計算して吸引量を微調整しないと余計にたるみが目立ったりしわになったり状態を悪化させることになります。

3-3. やせ形の方やむくみやすい方の場合

瘦せ型の方ではやはり皮下脂肪が少ないことが多いですが、部分的に微調整するだけで全体の印象が大きく変わることもあります。むくみやすい方では、脂肪吸引特にベイザー脂肪吸引を行った範囲は組織の癒着が進むのでむくみにくくなります。実際、リンパ浮腫の治療ではベイザー脂肪吸引がむくみの治療に有効であるという論文や実践しておられる医師もいます。

4. 何ccで決まる? 吸引量別お顔の変化

4-1. 片側5cc(両頬10cc)

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片側5cc、両頬で10ccの吸引量の症例です。この方は過去に他院で脂肪吸引したことがあり再手術でした。部分的に微調整したいというようなニーズの場合や、再手術の場合はこの程度の量になる事が多いです。特に再手術の場合は、組織が硬く癒着しているので、より慎重な手術操作が求められます。ベイザーで手前から時間をかけてスペースを作っていき、無理なく吸引できるような下処理が重要なポイントです。少ない量の場合でもどの部分が減れば全体として綺麗なバランスになるかを見極める必要があります。

4-2. 片側10cc(両頬20cc)

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両頬で20ccの吸引量の症例です。片側10cc程度、両頬で20ccも吸引できれば高確率で「やせた?」と他人からも気づかれやすい大きな変化です。私の頬の脂肪吸引の手術では最も多いケースだと思います。

4-3. 片側10cc(両頬20cc)以上

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それ以上となると、お顔の脂肪量も多い方が多くなります。どちらかというとお身体も全体的にふくよかな方も多くなり、お顔の一部分だけというよりは顎下や頬の正面なども適応になる方が多いです。特にお顔と首の境目がぼやっとされている方は、顎下部分の脂肪吸引で下顎骨のラインを出す事で「首が長く」「お顔も小さく」見える効果があります。

4-4. 取りすぎた場合の残念ポイント

脂肪はあるだけ取っていいものではありません。全体のお顔の大きさ、骨格、皮膚の質感などを見極めて吸引量を調整する必要があります。よくあるのは、頬骨が発達している人でその下の脂肪(皮下脂肪やバッカルファット)を減らしすぎると余計に頬骨が目立つような結果になってしまうケースです。また中年以降は皮膚が薄くたるみやすい方も多くなってくるので、むやみに取るとたるみが目立ちかえって老けた印象になってしまいかねません。技術的にも中高年の脂肪吸引は非常に難易度が高くなります。

4-5. 吸引量が少ない場合の残念ポイント

吸引量が少ない場合にはそれだけ変化が少ないという事になります。ただし一概に失敗というわけではなく、事前のカウンセリングの段階で「あまり量は取れない」「一部分だけを吸引します」「微調整します」というような説明で手術を受けたのであれば問題ないでしょう。脂肪が少ないにも関わらず「脂肪吸引で大きく変わる」という説明を受けたのであれば、それは問題で、術前の診断が誤っていて、皮下脂肪ではなく筋肉や骨の要素が大きかったのか、技術的に問題があり少量しか取れなかったのかという事になります。

5. お顔の脂肪吸引は何歳まで受けられる?

5-1. 中高年のお顔の脂肪吸引は難しい!

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これまで10,000件以上の経験から、30代後半以降、皮膚や皮下組織の個人差は大きくなってくると感じています。皮下組織もかなり緩くなっていることが多く、吸引圧の調整や吸いすぎないような形状のカニューレも特注して使用しています。脂肪量だけではなく皮膚の状態も見極めないといけません。どの程度の量までなら皮膚がたるまずについてくるのか、皮膚は少したるみが心配だけど少し量は取らないといけないなというケースなど個人によって様々です。当院ではベイザーの熱やスレッド(糸リフト)を併用して個人個人に合わせた工夫を行っています。提示した症例は手術当時53歳の方で脂肪量はありますが皮膚はしっかりしていた方だったのでベイザー脂肪吸引のみ行った方です。アフターは4年後で9キロお痩せになった後のお写真ですがたるみもなく輪郭がいい状態で保たれています。ベイザー脂肪吸引後は皮下組織の癒着により皮膚や脂肪が下に下がりにくくなっているため、ある程度、将来的なたるみ予防にもなると考えています。一方で最初から皮膚も薄くたるみの強い方にはフェイスリフト(切開リフト)の併用が必要になるケースもあります。個人個人に合わせた見極めが重要ですね。

5-2. 糸リフトの併用

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皮下の脂肪量が多く、皮膚のたるみが強い方にはベイザー脂肪吸引にスレッド(糸リフト)を組み合わせた方法を行う事があります。2016年に「脂肪吸引の後、皮膚を引き上げてずらして癒着させたらリフトアップ効果が長続きするのではないか?」という考えから始めたのですが長期的にも成績が良さそうで、2024年の日本美容外科学会(JSAPS)でも60分の招待講演を行ってきました。症例のようにフェイスリフト、ネックリフト並みの効果が長期間持続するようなケースも見られるので、より安定して効果を出せるように試行錯誤しています。(ちなみにこの症例では経過途中で糸リフトの追加やハイフなどは一切行っておりません。)

現在は、本来スレッドが必要ない若い人にまで脂肪吸引との抱き合わせで勧められることも多いようです。私がこの術式を開発した背景は「たるみが気になるけど、切るフェイスリフトは怖いからイヤ」という人に「糸リフトより長続きして、切開リフトより侵襲の少ない施術」は何かないかというものでした。若い人で対象になる方は少なく、「大きな体重の増減があって皮膚がたるんでいる方」「骨切り手術後に皮膚がたるんでいる方」が主な対象になります。

6. 脂肪溶解注射 vs 脂肪吸引

6-1. 脂肪溶解注射とは

脂肪溶解注射は主にデオキシコール酸を主成分とし、脂肪細胞の細胞膜を溶解して脂肪組織を減らす効果があると言われています。デオキシコール酸の濃度が高い方が効果が高いとされていますが、濃度が高いものはその分、腫れや痛み硬縮と脂肪吸引に似たダウンタイムが出るものもあるようです。注射液を注入するものなので、どの程度の注入量でどの程度脂肪が減るのかは全くわかりません。1回~3回ごとに効果を判定して追加するというような使い方をしますので基本的には複数回するのが前提です。3回して見た目の効果が無ければ4回目以降はお金の無駄かもしれません。いずれにせよ脂肪吸引に比べると効果はマイルドで複数回施術すると脂肪吸引と費用もあまり変わらないといったことになります。

6-2. 脂肪溶解注射に向いている人

脂肪吸引のようにフェイスバンドを付けたりダウンタイムが取れない方、部分的に少しだけ減量したい方は試してみると良いかもしれません。ただし皮膚の引き締め効果はベイザー脂肪吸引に比べて劣るため、皮膚の薄い柔らかい年配の方には向きません。また、製剤によって成分がばらばらです。中には天然ハーブ成分というように何だか分からないものが入っているものもあります。そのような成分は、アレルギーが出たり、多量に使用すると肝臓や腎臓に悪影響を与えることもあるので注意が必要です。

7. だれに任せる?

7-1. 医師選びのポイント

顔に限らずですが、脂肪吸引では脂肪事故のような悲しい事故も起きています。原因はほとんどが麻酔関連で、麻酔の管理がずさんで呼吸が止まってしまったり、暴れる患者を無理やり手術して血管を傷つけるといったケースです。静脈麻酔(正確には鎮静といいます)は安心麻酔や睡眠麻酔などいかにも楽に手術が受けられるといった軽いネーミングで普及していますが、一番命に関わるポイントです。手術をするドクターの麻酔スキルが十分か、または麻酔科医が麻酔をかけてくれるのかをしっかり確認しましょう。安全に手術を受けられそうだという点がクリアになれば、手術の技術的なことや仕上がりについては症例数が一番のポイントです。十分な症例数があって、自分に近い症例、理想の症例があるドクターがいいでしょう。

最初に言及したように、「小顔」はいろいろな要素が絡んでいます。「骨」「筋肉」「脂肪」「唾液腺(内分泌腺)」などです。総合的にしっかり判断して、皮下脂肪だけではなくその他の要素も考えて説明してくれるドクターが良いと思います。

7-2. この医師は避けるべし

頬の内側にバッカルファットと呼ばれる脂肪があります。頬骨の下のボリュームになっているのですが、頬骨よりも下が膨らんでいるような人や頬の内側をよく噛むような方は適応になりますが、高い位置にある脂肪なので大抵の人はバッカルファットを取っても小顔効果はあまりありません。しかし、局所麻酔で比較的簡単に取れるので、麻酔をかけられない医師や脂肪吸引ができない医師がバッカルファット除去と糸リフトを組み合わせて手術するケースが散見されます。糸の効果は6-12カ月程度なので、一時的に引き上がっても短期間で落ちてくると頬のコケが目立ち頬の下はたるんだバランスになってしまいます。維持するためにはずっと糸リフトを入れ続けないといけません。無限糸地獄におちいりますので、「バッカルファットと糸リフトの組み合わせ」には注意しましょう。